バイクのメンテナンスでブレーキのエア抜きに挑戦したものの、何度やってもレバーが固くならない、ブレーキがスカスカな感じが取れない、といった経験はありませんか。
特にリアブレーキのエア抜きで固くならない状況は、多くのライダーが悩むポイントです。
バイクのブレーキがエアを噛む原因は何なのか、そしてその症状とはどのようなものでしょうか。
この記事では、基本的なバイクのブレーキエア抜きのやり方や、正しい順番、作業のコツについて詳しく解説します。
さらに、バンジョーボルトからのエア抜きや、注射器を使ったやり方、一晩寝かせる方法の効果にも触れていきます。
もしブレーキのエア抜きをしないとどうなるのか、その危険性や、プロに依頼した場合の工賃の目安まで、バイクのブレーキに関するあらゆる疑問にお答えします。
この記事でわかること
- バイクのブレーキエア抜きで固くならない根本的な原因
- 正しいエア抜きのやり方と状況別の応用テクニック
- エア噛みの症状を正確に見抜くためのチェック方法
- プロにメンテナンスを依頼する際の費用感とメリット
バイクのブレーキがエア抜きで固くならない主な原因
- バイクのブレーキがエアを噛む原因は何ですか?
- バイクブレーキのエア噛みで起こる症状
- ブレーキのエア抜きをしないとどうなる?
- 基本的なバイクのブレーキエア抜きやり方
- バイクのブレーキのエア抜きの順番は?
- バイクのエア抜きのコツは?
バイクのブレーキがエアを噛む原因は何ですか?
バイクのブレーキレバーが固くならない最も根本的な原因は、ブレーキライン内に空気が混入する「エア噛み」です。では、なぜエアが混入してしまうのでしょうか。その理由は一つではありません。
最も一般的なのは、ブレーキフルードの劣化です。ブレーキフルードは吸湿性が非常に高く、時間とともに空気中の水分を吸収します。水分を含んだフルードは沸点が低下するため、ブレーキング時に発生する熱で沸騰しやすくなります。フルードが沸騰すると気泡、つまりエアが発生し、これがエア噛みを引き起こすのです。
また、ブレーキシステムの各部品に使われているゴム製シールの劣化も大きな原因となります。マスターシリンダーやキャリパーのピストンシールが経年劣化で硬化したり、ひび割れたりすると、その隙間からエアを吸い込んでしまうことがあります。転倒などでブレーキ周りにダメージを受けた場合も同様です。
そして意外と見落としがちなのが、メンテナンス時の作業ミスです。エア抜き作業中にリザーバータンクのフルードを切らしてしまったり、ブリーダーボルトの操作を誤ったりすることで、かえってエアを吸い込んでしまうケースも少なくありません。
ブレーキフルードは定期交換が必須
ブレーキフルードは走行距離にかかわらず、時間経過で劣化します。安全のため、一般的には2年に1回の交換が推奨されています。車検ごとに交換すると覚えておくと良いでしょう。(参照:本田技研工業株式会社 公式サイト)
バイクブレーキのエア噛みで起こる症状
ブレーキがエア噛みを起こすと、バイクの操作に明確な異常が現れます。これらの症状に気づいたら、決して放置してはいけません。
最も代表的な症状は、ブレーキレバーを握った際の感触が「スカスカ」「フワフワ」になることです。スポンジを握っているような感覚で、しっかりとした手応えがありません。正常な状態であれば、レバーを握り込むとある点でカチッと固くなりますが、エア噛みを起こしていると、レバーがグリップに付くほど深く握り込めてしまいます。
これにより、ブレーキの効き自体も悪化します。レバーを握ってから実際に制動が始まるまでにタイムラグを感じたり、普段通りの力で握っても制動力が明らかに低下したりします。これは、握った力がまずライン内のエアを圧縮することに使われ、ブレーキパッドへ十分に圧力が伝わらないために起こる現象です。
「あれ、いつもよりブレーキが深いな?」と感じたら、それはエア噛みのサインかもしれません。走行前にブレーキレバーを数回ニギニギして、握りしろに変化がないか確認する習慣をつけることをお勧めします。
ブレーキのエア抜きをしないとどうなる?
ブレーキのエア噛みの症状を放置し、エア抜きをしないまま走行を続けることは極めて危険です。
まず、制動距離が大幅に伸びるため、追突事故のリスクが格段に高まります。とっさの場面でブレーキをかけても、思った通りにバイクが止まらず、重大な結果を招く可能性があります。
さらに危険なのが「ベーパーロック現象」です。これは、長い下り坂などでブレーキを多用した際に、ブレーキの熱で劣化したフルードや混入したエアが沸騰・膨張し、ブレーキライン内が気体で満たされてしまう現象を指します。この状態に陥ると、ブレーキレバーを握っても圧力が全く伝わらなくなり、ブレーキが完全に効かなくなるという、非常に恐ろしい事態を引き起こします。(参照:JAF クルマ何でも質問箱)
ブレーキの異常は命に関わります
ブレーキはバイクの安全を司る最重要保安部品です。少しでも「おかしい」と感じたら、絶対に走行を続けないでください。すぐさま安全な場所に停車し、点検を行うか、専門のバイクショップに相談することが不可欠です。
基本的なバイクのブレーキエア抜きやり方
ここでは、最も基本的なブレーキのエア抜き方法を解説します。作業自体はシンプルですが、丁寧さが求められます。
準備するもの
- バイクに適合した新品のブレーキフルード(DOT4が一般的)
- ブリーダーボルトに合うサイズのメガネレンチ
- 廃油を受ける容器(ペットボトル等)と透明な耐油チューブ
- リザーバータンクの蓋を開けるためのドライバー
- ウエス(フルードの飛散・付着防止に多めに用意)
作業手順
養生:ブレーキフルードは塗装面を侵すため、リザーバータンクやキャリパー周辺をウエスでしっかりと保護します。
フルード交換:リザーバータンクの蓋を開け、古いフルードをスポイトなどで抜き取ります。その後、新しいフルードを上限レベルまで注ぎます。
チューブの接続:キャリパーのブリーダーボルトにメガネレンチをかけ、その上から透明チューブを接続。チューブの反対側は廃油受けへ入れます。
エア抜き作業:「レバーを数回握って圧をかける → 握ったまま保持 → ブリーダーボルトを少し緩めてフルードを出す → すぐに締める → レバーを離す」この一連の動作を繰り返します。
確認:チューブから出てくるフルードに気泡が混じらなくなれば完了です。作業中はリザーバータンクのフルードを切らさないよう、こまめに補充してください。
最後にブリーダーボルトを本締めし、リザーバータンクの油量を調整して蓋を閉めれば作業は終了です。
バイクのブレーキのエア抜きの順番は?
ブレーキのエア抜きを行う上で、正しい順番で作業を進めることは非常に重要です。効率良く、かつ確実にエアを抜くためには、原則として「マスターシリンダーから最も遠いキャリパー」から始めるのがセオリーとされています。
フロントがダブルディスクブレーキ(キャリパーが左右に2つ)の場合を例に見てみましょう。
マスターシリンダーから遠い方のキャリパー:一般的に、ブレーキホースの分岐点から距離が長い方のキャリパーから作業を開始します。
マスターシリンダーに近い方のキャリパー:次に、もう一方のキャリパーのエア抜きを行います。
マスターシリンダー本体:最後に、マスターシリンダー本体に残ったエアを抜きます。ブレーキレバーを小刻みに何度も握ると、リザーバータンク内に気泡がポコポコと上がってくることがあります。これがマスターシリンダー内のエアです。
ABS搭載車の場合
ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が搭載されているバイクの場合、ABSユニット内にエアが混入すると、通常のエア抜き手順だけでは完全に抜ききれないことがあります。ABSユニットのエア抜きには専用の診断機が必要になるケースが多いため、ABS搭載車のフルード交換やエア抜きは、専門知識のあるバイクショップに依頼するのが最も安全で確実です。(参照:ボッシュ株式会社 公式サイト)
バイクのエア抜きのコツは?
バイクのエア抜き作業をスムーズに進め、確実に成功させるためにはいくつかのコツがあります。これらを押さえるだけで、作業効率と成功率が大きく向上するでしょう。
第一に、焦らずゆっくりと作業を行うことです。特にブレーキレバーの操作は、素早く行うとフルードがリザーバータンク内で泡立ってしまい、新たなエアを発生させる原因になります。レバーを握る時も離す時も、ゆっくりとした動作を心がけてください。
第二に、ブリーダーボルトの操作です。ボルトを緩めるのは一瞬(1/4回転程度)で十分です。緩めすぎるとネジの隙間からエアを吸い込んでしまう可能性があります。そして何より重要なのが、ブレーキレバーを握って圧力がかかっている間にボルトの開閉を完結させることです。レバーを離してからボルトを締めると、負圧でエアを吸い込んでしまいます。
作業の連携プレイ
もし二人で作業できるなら、一人がレバー操作、もう一人がブリーダーボルト操作に専念すると、ミスが格段に減ります。「握って!」「はい!」「緩めて!」「締めた!」「離していいよ!」といった声の掛け合いで、確実な作業が可能になります。
最後に、リザーバータンクのフルードレベルには常に注意を払いましょう。作業に集中するあまりフルードを切らしてしまうのが、最もよくある失敗例の一つです。常に下限レベル以上に保つことを徹底してください。
それでもバイクブレーキのエア抜きで固くならない時の対処法
- バイクのリアブレーキエア抜きが固くならない
- ブレーキがスカスカな時に試すバンジョーボルトのエア抜き
- 注射器を使ったエア抜きのやり方
- ブレーキエア抜きで一晩置く方法の効果
- バイクのブレーキエア抜きにかかる工賃
- バイクブレーキのエア抜きで固くならない問題の総括
バイクのリアブレーキエア抜きが固くならない
フロントブレーキはうまくいったのに、リアブレーキのエア抜きだけがどうしても固くならない、というケースは少なくありません。リアブレーキには、エアが抜けにくい特有の構造的要因が存在します。
多くのバイクでは、リアのマスターシリンダーが低い位置にあり、そこからブレーキホースが一度上に持ち上がってからキャリパーに向かうレイアウトになっています。この「U字」になった部分にエアが溜まりやすいのです。
また、リアのリザーバータンクはフロントに比べて容量が小さいため、少し作業しただけですぐにフルードが空になり、知らず知らずのうちにエアを吸ってしまっていることもあります。フロント以上にこまめなフルード補充が必要です。
リアブレーキエア抜きの裏ワザ
どうしてもリアブレーキのエアが抜けない場合、一度キャリパーをスイングアームから取り外し、ブリーダーボルトがブレーキラインの中で最も高い位置に来るように持ち上げて作業すると効果的です。こうすることで、キャリパー内部に溜まったエアがブリーダーボルトから排出されやすくなります。
ブレーキがスカスカな時に試すバンジョーボルトのエア抜き
通常のブリーダーボルトからのエア抜きを何度行ってもブレーキがスカスカな場合、エアがシステムの思わぬ場所に溜まっている可能性があります。その代表的な場所が、ブレーキホースを接続している「バンジョーボルト」の接続部です。
特にマスターシリンダー側のバンジョーボルトは、システムの最も高い位置になることが多く、しつこいエアがここに溜まる傾向があります。
バンジョーボルトからのエア抜き手順
徹底的な養生:バンジョーボルトを緩めるとフルードが勢いよく漏れるため、周辺を大量のウエスで覆い、塗装面を完全に保護します。
圧力をかける:ブレーキレバーを強く握り、ライン内に圧力をかけた状態を保持します。
一瞬緩める:レバーを握ったまま、メガネレンチでバンジョーボルトをほんの一瞬だけ(1/8回転ほど)緩めます。「プシュッ」という音と共にエアが抜けたら、すぐにボルトを締めます。
この作業を数回繰り返すと、最後のエアを追い出すことができます。ただし、フルードが飛散しやすく、ボルトの締め付けトルク管理もシビアなため、慎重な作業が求められます。
注射器を使ったエア抜きのやり方
注射器(シリンジ)を使うと、より効率的かつ強制的にエア抜きを行うことができます。主に2つの方法があります。
方法1:下から圧送する方法
この方法は、キャリパー側から新しいフルードを注入し、エアをマスターシリンダー側へ押し出すやり方です。エアは自然と高い方へ上がっていく性質があるため、非常に理にかなっています。
リザーバータンクの蓋を開け、古いフルードを抜き取っておきます。
注射器に新品のブレーキフルードを満たし、チューブを介してキャリパーのブリーダーボルトに接続します。
ブリーダーボルトを少し緩め、注射器でゆっくりとフルードを注入していきます。
リザーバータンクに気泡とともにフルードが上がってくるのを確認します。気泡が出なくなれば完了です。
方法2:上から吸引する方法(負圧式)
こちらは、ブリーダーボルト側から注射器でフルードとエアを強制的に吸い出す方法です。
リザーバータンクに新しいフルードを十分に満たしておきます。
ブリーダーボルトにチューブと空の注射器を接続します。
ブリーダーボルトを少し緩め、注射器を引いてライン内のフルードとエアを吸い出します。
作業中はリザーバータンクのフルードが絶対に無くならないよう、常に補充しながら行います。
注射器を使う方法は非常に効果的ですが、ブレーキフルードに適合した耐油性の注射器とチューブを使用してください。また、作業後はブレーキクリーナーなどで付着したフルードを完全に洗浄しましょう。
ブレーキエア抜きで一晩置く方法の効果
あらゆるエア抜き方法を試しても、あと少しだけスポンジーな感触が残る場合に試したいのが、「一晩置く」という方法です。
やり方は非常にシンプルです。エア抜き作業を一通り終えた後、ブレーキレバーを握った状態で、輪ゴムやタイラップなどで固定して一晩放置します。これにより、ブレーキライン内に常に圧力がかかった状態が保たれます。
この状態を維持することで、ブレーキホースのゴムに微細に溶け込んでいたり、壁面に付着したりしていた小さな気泡が、じわじわとシステムの高い位置(マスターシリンダーやバンジョーボルト付近)へと集まってきます。
翌朝、固定を外してからマスターシリンダー付近を軽くコンコンと叩いたり、レバーを数回ポンピングしたりすると、リザーバータンクに最後の気泡がポコッと上がってくることがあります。これで、カチッとした完璧なブレーキタッチが手に入ることが多いですよ。
また、この方法はラインのどこかからフルード漏れがないかを確認するリークテストとしての役割も果たします。一晩置いても圧力が抜けてレバーがスカスカになってしまう場合は、どこかの部品が劣化している可能性が高いと判断できます。
バイクのブレーキエア抜きにかかる工賃
セルフメンテナンスに自信がない場合や、様々な方法を試しても解決しない場合は、無理をせずプロに依頼するのが最善の選択です。安全に関わる重要な部分だからこそ、確実な作業が求められます。
バイクショップにブレーキフルード交換およびエア抜きを依頼した場合の工賃の目安は以下の通りです。ただし、店舗や地域、車種によって料金は変動するため、あくまで参考としてください。
作業内容 | 工賃の目安(フルード代別途) |
---|---|
フロントブレーキ(シングルディスク) | 2,000円 ~ 4,000円程度 |
フロントブレーキ(ダブルディスク) | 4,000円 ~ 8,000円程度 |
リアブレーキ | 2,000円 ~ 4,000円程度 |
前後セット | 5,000円 ~ 10,000円程度 |
これらの工賃は、あくまで基本的なフルード交換・エア抜き作業の料金です。もしマスターシリンダーやキャリパーのオーバーホールが必要になった場合は、別途部品代と追加の作業工賃が発生します。
プロに依頼する最大のメリットは、その確実性と安心感です。専用の真空引きツール(バキュームブリーダー)などを使用して作業を行うため、個人では抜ききれないようなしつこいエアも確実に除去してくれます。また、エア抜きで直らない場合の根本的な原因(部品の劣化など)を的確に診断してくれる点も、プロならではの強みと言えるでしょう。
バイクブレーキのエア抜きで固くならない問題の総括
この記事で解説してきた、バイクのブレーキエア抜きでレバーが固くならない問題についての要点を以下にまとめます。
- ブレーキが固くならない最大の原因はブレーキライン内へのエアの混入である
- エア混入はフルードの劣化やシールの劣化、作業ミスなど多岐にわたる
- エア噛みの主な症状はレバーのスカスカ感と制動力の低下
- エア噛みを放置するとベーパーロック現象でブレーキが効かなくなる危険がある
- エア抜きの基本は「遠い所から」「フルードを切らさず」「ゆっくり丁寧に」
- ダブルディスクの順番はマスターシリンダーから遠い方が先
- レバー操作はゆっくり行い、ボルトの開閉はレバーを握ったまま完結させる
- リアブレーキはホースの取り回し上、エアが溜まりやすい構造を持つ
- キャリパーを外してブリーダーボルトを最高点にするとエアが抜けやすい
- 通常のエア抜きでダメな場合、バンジョーボルトからエアを抜く方法が有効
- 注射器を使えば下から圧送、または上から吸引して強制的にエア抜きが可能
- レバーを握って一晩置くと、微細なエアが浮き上がりやすくなる
- セルフメンテナンスが困難な場合は迷わずプロに依頼すべき
- プロの工賃は1キャリパーあたり2,000円からが目安となる
- 安全は何物にも代えがたい、ブレーキの違和感は絶対に放置しないこと